日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.25

Vol.25 Theme : デヴィッド・ボウイの初期5年間を振り返る

 

 そのあまりにもドラマのような完成された人生や才能を惜しむ声が後を絶たず、逆にこれからボウイに出会おうとする人達には狭き門になっていないかが心配な2016年初春。そんなボウイにも青き時代、未完成ながらも模索し、己の芸術道を極めんとしていた時代が当然あったわけで、今回はそのドラマチックな半生の序章とも言うべき初期5年間を振り返ったコンピ『Five Years』を紐解きながら、あらためて彼の魅力に迫ってみよう。

 

『Five Years』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 ビートルズなんかもそうだけど、現代の感覚で考えるとちょっとにわかには信じ難いような……そう、2~3年のスパンで……いや、ヘタすれば1~2年のスパンで目まぐるしく表現のベクトルを変えることが珍しくなかった60年代や70年代。とはいえリスナーの反応は双刃の剣で、やりようによってはそっぽを向かれてもおかしくないわけで……そこら辺は現代よりシビアかも? そんな振り幅を見事にやり遂げた稀有なアーティスト、デヴィッド・ボウイ。プロとしてのキャリア自体は60年代のモッズBANDとしてスタートしつつも、ヒットに恵まれ英国のリスナー達に広く知られるようになったのは<フォーク期>。

 

  ボブ・ディランのイギリス上陸の影響もありつつ、モッズBANDでプロデビューしたがゆえに複数人数でなければ成し得ない音楽表現への反動なのか? 一人でアコギを抱え、自由に表現することのクールさと利便性を(日本での弾き語りブームも大体バンドブームと入れ替えだし)、ボウイがいち早く察知したことは想像に難しくない。しかしおおよそのフォーク・アーティストが、サイケやブルース等、より泥臭い方向へ進化していく中で、ボウイはフォークとSFを合体。ちょうどアポロ11号が人類初の月面着陸をする5日前にリリースされたのが名曲「Space Oddity」で、アポロ号の快挙を伝えるテレビのニュースや特番で繰り返し使用されることでヒット。まさに英国リスナー達にボウイの名前を刻んだ記念碑的楽曲。

 ヒットを受けてアルバム制作に乗り出したため、アルバム『Space Oddity』は全体的にストーリーテリングな叙情的フォーク・アルバム。しかしSF要素よりはファンタジー的な物語が強く、後年のLIVEでも度々披露していた「Wild Eyed Boy from Freecloud」を代表に、ハリー・ポッターさながらの冒険譚が美しく語られる。

 

『Space Oddity』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてビックリするのが次のアルバム『The Man Who Sold the World』。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスの台頭を受けてか、何とハードロックな一枚に! とは言ってもツェッペリンやサバスもアコースティック曲があるだけに、泥臭いセブンスのドライブ感と叙情的なアコギの音色は、意外と親和性が高い。結果ニルヴァーナのカヴァーでより認知を広げた隠れ名曲「The Man Who Sold the World」を始め、その後<ハードなギターにPOPな歌物>というグラムロックへの土台が見え隠れする。

 

『The Man Who Sold The World』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 その礎感が一番大きいのが次作『Hunky Dory』で、マニアの中では最高傑作と評する人が少なくない、メロディアスな隠れ名盤。冒頭の「Changes」から変化を恐れぬ宣言を高らかに歌い上げ、名曲「Life On Mars?」ではフランク・シナトラの大スタンダード「My Way」のコード進行をそのまま借用しながらも、全く新しいメロディーとSF的な価値観を加えて、見事オリジナルに昇華(ボウイマニアだったシド・ヴィシャスが「My Way」をカヴァーしたのも頷ける)。そんな代表曲達や「Quicksand」「Kooks」(かのThe KooksはここからBAND名を拝借)といった曲達がフォーク感を、ドライヴィンな「Andy Warhol」や「Queen Bitch」がハードロック感を引き継いでいるものの、POP度がグンと増している。そして佳曲「Oh! You Pretty Things」や「Fill Your Heart」ではボードヴィル風なストーリーテリングが綴られており、これが次作の最高傑作への布石となる……。

 

『Hunky Dory』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そう、言わずと知れた大名盤『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』、通称『ジギー・スターダスト』。これまでのボウイの音楽性を全て内包しながらも、他の追随を許さぬほど激POPな仕上がりに。<5年後に破滅を宣告された地球(「Five Years」)を救いに、火星より舞い降りたロックスター(「Starman」「Ziggy Stardust」)>……というコンセプトもあり、映画のサントラのようにストーリーが断片的に語られ、それを彩るメロディやアレンジの素晴らしさにグイグイと引き込まれてしまう……客観的に聴いても大名盤なのは間違いないが、おそらく映画や演劇的な風景描写や(「Moonage Daydream」「Suffragette City」)、その後のLIVEでのシアトリカルな表現で(「Rock ‘N’ Roll Suicide」)、ジギーの良さがリスナーの中でもどんどん上書きされてしまうのが、このアルバムのスゴイところ。ハイレゾの高音質なら、その豊潤なアレンジをたっぷりと堪能出来る。機会があればお試しあれ。

 

『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてそのジギーのツアーで訪れたアメリカから大いなるインスパイアを受けた『Aladdin Sane』は、さながら米国版ジギーの様相。SF色は影を潜め、代わりに語られるのは探偵小説のようなハードボイルド(「Watch That Man」)、郊外の狂気(「Drive-In Saturday」「Panic in Detroit」)、ドラッグ漬けのスター(「Aladdin Sane」「Cracked Actor」)etc……それらがハードなギターとジャジーなピアノという、一見ミスマッチな組み合わせながら、絶妙なトリップ感を味合わせてくれる傑作。名曲「Time」や「Lady Grinning Soul」でのメロウなバラッド感も良いアクセントとなり、お子様向けと思われていたグラムロックを芸術の域に押し上げたのは間違いない。

 

『Aladdin Sane』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 結果ショービズ界のカルトヒーローとして君臨したボウイは、トリックスターな振る舞いに疲れ果て、若き日に慣れ親しんだ名曲カヴァー集『PinUps』を制作して一息つく。お馴染みThe Whoを2曲も取り上げるのはさすがモッズ出身(「I Can’t Explain」「Anyway, Anyhow, Anywhere」)。同じく2曲取り上げたヤードバーズ始め(「I Wish You Would」「Shapes Of Things」)、英国ビートBANDの歴史を凝縮したアルバムで原点を確認したボウイは、その後また怒涛の70年代後半へと旅立つことになる……。

 

 ざっと振り返ったボウイの初期5年間……もちろん彼の代表作『ジギー・スターダスト』の冒頭を飾る「Five Years」から命名されたコンピレーションだが、たった5年でこの振り幅の広さよ!

 飽きっぽいということではなく、おそらくメディアに祭り上げられることで短命に終わるショービズの掟を、自らを刷新することで打ち破ろうと模索したのだろう。そんな若き日々の記録が克明に刻まれ、アルバムのみならず、その生涯を通じて<変化を恐れない>ことを発信し続けたデヴィッド・ボウイ。支持されるということは、表現者としては同じ物を求められてしまうという宿命も理解した上で、周到に、時に大胆に、その期待を見事に裏切り続けてきた。もちろん90年代頃には時代の変化に上手く対応しきれない時期もあったが、後輩達のバックアップや、かつての盟友ミック・ロンソン(初期5年間を支えた名ギタリスト。彼についてはいずれ単独で掘り下げたい)や、トニー・ビスコンティ(初期5年間と後期10数年を支えたプロデューサー)との再会など、数々のドラマを経て健在ぶりを示し、そして文字通りスターマンとなってしまった彼の、試行錯誤した若き日々は、必ずや多くの人に生きるヒントをもたらす作品揃い。この機会に青きボウイもチェックしていただきたい。

 


 

【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。